発表までの1週間が長かった。
滑り止め校は受かっているとはいえ、その高校には行きたくなかった。
夢を見た。
同じ高校を受験した友達がみんな合格し、僕だけが落ちてるという夢。
でも夢は逆夢って言う。
だから内心ホッとした。
受かってる!
きっと!
合格発表の朝。
夢は逆夢を信じ、高校へ向かった。
でもなぜか足取りが重かった。
夢は逆夢と信じたいけど、正直自己採点だと合格ラインギリギリか、それ以下。
正夢かも。
ものすごく不安だった。
目の前に合格発表が掲示されている高校が見えてきた。
発表場所までおよそ50メートル。
友達の姿が見えた
。ウルシくん、イズミくん、ツジテイ・・・。
でも僕はみんなを無視した。
声をかけなかった。
学校に着いた。
歓声が聞こえる。
「やったぁ!」
「受かった、受かった!!」
合格者の満面の笑み。
僕もその一員になりたい。
聞こえる声は歓声ばかり。
当たり前か。
受からなかったら声なんて出せない。
「あ~、不合格!」
「ちくしょう!落ちた!」なんて、言うわけもない。
敗者はみんな無言でその場を立ち去る。
顔を見たらすぐ分かる。
あ、この子は落ちたんだって。
目の前には合格発表の掲示板。
当時は確か受験番号以外に名前も明示されていた。
だから名前がなかったら、ホントつらい。
恥ずかしい。
なぜか最初、自分の名前ではなく、友達の名前を探した。
みんな受かってた。
僕と成績がドングリのウルシくんも。
でも、そこには友達の名前しかなかった。
僕の名前はなかった。
正夢だった。
自分の名前がない。
ない、ない、ないなんて、何度も探すなんてことなかった。
だって一瞬でわかったもの。
受験番号順でいうと、僕だけ飛ばされている。
何回見たって同じ。
僕の隣にはイズミくんがいた。
イズミくんは何も言わなかった。
黙ったままだった。
後から合格発表を見に来た友達と出くわした。
「どうやった?」僕は何も答えず、なぜかニコリとしてしまった。
凹んでる顔を見せたくなかった。
でもきっと、顔をこわばっていたと思う。
気づいただろうな、僕が落ちたって。
結果報告のため、学校へ向かった。
公立高校は落ちる子のほうがはるかに少ない。
不合格者は少数派。
だからクラスはわいわいにぎやかだ。
そんな雰囲気に負けそうだった。
みんなに聞かれる。
「受かった?」
「どうやった?」って。
「ダメだったけど、まあ頑張ったしな。しゃあないわ。英語のミスが痛かったわ」 なんて、冷静な自分を装う。
カッコ悪い自分を見せたくなかった。
敗れはしたものの全力を尽くしたよ。
そんな自分、カッコいいよ!
何とか自己肯定するのが精一杯だった。
家に帰るのがつらかった。
落ちたことはもう伝えてある。
でも次には慰めの言葉をかけられるはず。
そんな言葉聞きたくなかった。
案の定、
「残念だったけど、よく頑張ったんやし」
「その高校に縁がなかったんやで」
「つらいかもしらんけど、がんばらなあかんで」
僕が予想した言葉ばかりが聞こえてくる。
そう、聞こえてくるだけ。
今の僕には聞こえてくるだけの、耳障りな雑音でしかなかった。
そんな耳障りな音から逃げるように、僕は四畳半の自分の部屋に閉じこもった。
布団をかぶって、いろいろなことを考えた。
これまでのこと。
これからのこと。
でも不思議と涙は出てこなかった。
ただ、ただ今はひとりになりたかった。
ひとりになって事実と向き合って、それに整理をつけたかった。
新しくなりたかった。
何日かかるか分からないけれど、新しくなりたかった。
僕の中学生生活はまもなく終わりを迎えようとしていた…。
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私は先の作文の少年のような心境にはなりませんでした(笑)。
その後は遮二無二勉強に打ち込みました。
もう負けたくなかったんです。
他人にも自分にも… . 振り替えれば受験勉強で得たものは単なる知識だけではなかったように思います。
受験勉強を通じ、
自分の弱さに直面し、
それと向き合い、
どう乗り越えるのか、
その方法を学んだように思います。
自尊心の強い自分、
プライドの高い自分、
自分の弱さを知りつつも、
それを認めたくない自分がいました。
しかしながらそれを自身が認め、
受け容れ、
どう克服するかということを学んだ気がします。